うきは通信

うきは自家焙煎コーヒー巡り②「叙情詩」~街の迷い家として~
2022/11/07
夜のとばりが下りた街並みに、ぽっかりと一つの明かりが灯る。 |
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入り口からもれるそのあたたかな光に吸い寄せられると、そこは2階へと続く狭く白い階段がある。見上げると踊り場の天井に吊るされたドライフラワーのシルエットが美しい。 それらを眺めながらゆっくり登って行くと、その店「叙情詩」にたどり着く。 |
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緩やかなカーブを描く木の天井と床とが、やわらかなトンネル、あるいは森の隠れ家を思わせるような、そんなあたたかさを感じさせる。広々とした空間にはカウンター席と4人掛けのテーブル席が3つ、どの席を選んでも居心地が良い。 | ||
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バリスタである店主の提供するメニューは、エスプレッソやカプチーノ、エスプレッソバナナシェイクなどのドリンクから、アフォガードやパウンドケーキなどのデザートまで、そのどれもが細部にまで店主の気配りを感じることができる。 | ||
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店主の自家焙煎した豆が飲めるのは本日のコーヒーだ。 グアテマラ、コロンビア、ブラジル、マンデリンの深煎りに向いた4種の豆をその時々に焙煎し、そのうち用意された1種類を飲むことができる。 焙煎してから1日から2日寝かせた後に提供されるそれらは、ペーパーのハンドドリップで淹れられる。もちろん豆によってそれぞれの味わいは違うけれど、そのすべてに共通するのはコーヒーを飲んだ後の、口の中に広がる余韻だ。それは店主の、食後にコーヒーをゆっくりと味わってほしいという考えに基づいて焼かれている。 |
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15時にオープンし夜の24時まで開いているこの店を特徴づけるのは、キャンドル作家としても活動する店主が作ったキャンドルがいたるところに置かれていることだろう。テーブルやカウンターの上のみならず、店内奥の中央には現代アートのモニュメント的にいくつものキャンドルが置かれている。 席につくと店主が火を灯してくれるキャンドルは、美しい。 ゆらゆらと揺れる火がキャンドルの表面に施された現代アートの絵画のような綺麗な模様を投影する。 |
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それらキャンドルの灯りと、レコードでかけられる良質な音楽と、店内のしつらえとが合わさって、独特の居心地の良さを感じられる空間になっている。 それは店主である30代半ばの岩佐さんが経てきたもの影響が大きいようだ。 中学・高校時代から好きだった音楽、東京での楽器商社のサラリーマン時代に行っていたといういくつかの美術館、そして好きで巡っていたというカフェや喫茶店、作家と知り合ったことがきっかけだというキャンドル。 店主が好きでい続けたものたちが、調和し混じり合ったのが叙情詩という店なのだ。 |
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私がこの店でお気に入りなのは雨の日だ。 |
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窓際の席から吉井の細い道を見下ろす。音楽と雨音とが何とも言えない心地よさを生み出し、そこに時折り車が通る。車のエンジン音、タイヤが雨水を跳ねながら走る音。そうして車のヘッドライトと通り過ぎた後の赤いブレーキランプの光が、窓についた雨粒で乱反射する。それはあまりにも叙情的な光景だ。 | ||
岩佐さんは自分が東京時代に自分が行っていた店のように、訪れた人が日常から離れられる空間にしたかったと言う。 | ||
確かに、ぽっかりと夜の吉井町に開いた真っ白な入り口と、狭い階段とが、訪れた人を日常から非日常へと誘う。 | ||
叙情詩は道に迷った旅人が出くわすという迷い家のような、そんな存在なのかもしれない。 |
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叙情詩 |
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執筆/撮影 片中ゆう子(テヒマニ編集室) ウェブメディア「耳納山麓の人と暮らし」準備中 note:https://note.com/hotorinikki instagram:tehimanihensyushitu(テヒマニ編集室) |
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