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小塩の日々 ―移住と営農組合―

2023/03/27

小塩の谷は空が広い。
川を中心に田んぼが広がっているので、山間にありつつも山や木々が迫ってくるという感じではないので、里山という言葉がしっくりくる。
私が小塩の集落に暮らし始めて丸三年という月日が経った。
きっかけは友人たちと一緒にほたるの里広場でキャンプをしたことだった。同じうきは市内に住みながら小塩に来たことはなかったけれど、その一度のキャンプの時にこの谷のどことなく明るい雰囲気が印象に残っていた。
それから1年、自分の事務所のような場が作れないかと思った時に、ふと小塩を思い出して借りられる物件を探しに来た。2度目か3度目の時、今の家に出会い一目惚れをし、あれやこれやがあった末、小塩に暮らすことになった(この詳細はまたいつかどこかで)。
私はこの建物にのぼせあがっていたので、小塩全体や中崎地区がどんな場所でどんな人が暮らしているのかまったく知らずに移り住んだ。周囲の人たちがとても良く幸にして苦労をしていない。けれど、もし移住を考えている人がこれを読んでいたら、まずは土地と自分の性格・自分の暮らし方の相性をしっかり検討することをおすすめする。
私はかなり無謀だった。
その最大の理由は家に付いてきた田んぼだ。
私は田んぼ付きの物件だと聞いた時、何も思わなかった。どうしても欲しい物件だったから農業委員会の審査があった時も必死に田んぼやりますアピールをして無事に審査を通過した。けれど実際のところ、それまで農業というのが身近ではなかったのでその大変さを知らなかったのだ。
私が米作りの大変さに気がついたのは、2年目の米作りが終わった時のことだった。
2年目の米の収穫が終わった後、小塩の周りの人たちに「田んぼってめちゃくちゃ大変じゃないですか?」と聞いたら、「そんなの分かってたやろ」とか「はじめっからあんたんこと心配しとった」とかそんな返事がごろごろ返ってきた。
私にしてみれば「ここ買う前に教えてよ~」という具合だったのだけれど、どうやら大抵の人は田んぼ付きというだけでその大変さに気づくらしく、私のように考えなしに買う人の方がめずらしいようだ(それに2年目の終わりまで大変さに気づかないということ自体、私の度を越した鈍さがお分かりいただけるだろう)。
それに私は体力もなく、農業の専門的知識もなく、高額な農業機械も持っておらず、私自身ができることは限りなく少ない。それでも、なんとか3年目の米作りを終えることができたのは、小塩に営農組合があるからだ。
ちなみに営農組合というのは高齢化や過疎化の進む集落が農地を維持するために農業機械の購入や作業を共同するための組織だ。
小塩の営農組合は正式には「小塩ホタルの里営農組合」という(以下、営農)。
営農のおじちゃんたちは米作りに関して右も左も分からない、無謀でとんちんかんな移住者の私に、分け隔てをすることなく米作りを見せてくれて、疑問に思ったことを聞くとすぐに答えてくれる。
そして、私が自分でできないこと、機械が必要なことについては営農にお金を支払って作業してもらっている。
けれど、請け負ってもらっている部分だけでなく何かれと気にかけてくれていて、水の張り具合やその時期その時期にどんな作業をする必要があるかを聞くと丁寧に教えてくれる。
おかげでど素人の私が作ったお米でもずいぶんと美味しくて、この3年、毎年びっくりしている。
小塩の集落では「夢つくし」という品種の米が作られていて(例外はほんの一部)、作業時期にほぼずれがない。あるとすると田んぼに水を張りはじめるタイミングぐらいなので、その時々の作業が2~3週間ぐらいに集中する。田植えと稲刈りの時期は作業量も多く、従事している時間も長い。特に小塩の稲刈りは8月の終わりから9月上旬の暑い盛りなので、60代後半から70代前半までのおじちゃんたちの身体が心配で心配でしょうがない。
そう、高齢化と過疎化で田んぼを荒らさないためにという目的で組織された小塩の営農自体も高齢化が進んでいるのだ。
いつも作業を見せてくれるおじちゃんたちが冗談混じりに「もう辞めるばい」と言う度に、できることならばそうして欲しいといつも願う。なぜならば、自分の家の田んぼの田植えや稲刈りでも疲弊している人だっているにも関わらず、それが2~3週間続いたあとのおじちゃんたちの疲労は相当なものだろうというのがやすやすと想像がつくからだ。
それでも、営農のおじちゃんたちは自分自身の身体が続くそのぎりぎりまで営農として活動を続けるだろう。それに営農という組織自体の高齢化やこれからの営農の在り方についても彼らは考えている。
そういう志とか作業姿とかが、超絶格好いいのだ。
この丸3年というもの、私にとって営農のおじちゃんたちは燦然と輝くスーパーアイドルだ。
小塩に暮らし、そう思える人たちに出会えてほんとうに良かった。
今年もまた、米作りの季節が始まる。
【追記】
ちなみにですが、小塩の営農組合が作っているお米が「小塩ほたる米」として、耳納の里や道の駅うきは、下記のリンクから買うことができます。よろしかったらぜひお試しくださいませ。
道の駅うきはオンラインショップ 
小塩ほたる米
執筆/撮影 片中ゆう子(テヒマニ編集室)  ウェブメディア「耳納山麓の人と暮らし」準備中。
note:https://note.com/hotorinikki
instagram:tehimanihensyushitu(テヒマニ編集室)

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