うきは通信

小塩の日々 ー鬼火焚きー
2023/01/15
ばんっ、ばんっ。 竹のはぜる大きな音が鳴り響き、高く組まれた竹の櫓が燃え上がる。 小塩の鬼火焚きだ。 |
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毎年12月20日前後の日曜 | ||
「うわぁーん、わん」というチェーンソーの音が小塩の谷にこだまする。 家の中でそのチェーンソーのエンジン音を聞いていると「年末が始まった!」と気分が高揚して、私はいそいそと着替えて現場へと急ぐ。 |
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道路沿いに何台かのトラックと軽トラが並び、十数名の集落のおじちゃんたちがそれぞれに作業をしている。鬼火焚きの櫓(やぐら)に使う竹を切り出しているのだ。 チェーンソーを持った人はどれくらいの長さの竹が必要なのかを周りと話しながら見定め、次から次へと竹を切り出していく。 |
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あっという間に切り出された竹を、道路で待っている人たちが1人がかりだったり2~3人がかりだったりしながら、わさわさと竹の葉を揺らしながらトラックや軽トラの荷台に載せる。 そうして竹を満載したトラックは中崎の公民館前の田んぼへ行き、竹を下ろしては戻ってきて、また竹を満載してを何度か繰り返す。 |
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必要な竹の量を取り終えたら次は櫓作りだ。 櫓は毎年毎年、ちょっとずつ作り方が違う。こうでなくてはいけないという決まりは特にないらしく、仕切る人たちが今年はこんな感じでどうだろうと提案した形で作られる。 |
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まずは切り出してきた竹の枝葉をチェーンソーや鉈、ノコギリなどで落とす。そうしたら四角錐の柱となる竹を4本、梯子を使い番線(鉄線)で頂点を締める。そこに水平の竹を4辺入れ枠を作り、さらに中央で交差する2本の竹を入れ土台ができる。そこに切り出してきた竹を垂直に立てて入れこみ、ある程度の数になったら長く美しい形の竹を先端の葉っぱを残したまま立てる。あとは空いている場所にぎっしりと竹や竹の枝葉、火がつきやすいように集めてきた松葉などを入れこみ、ついに櫓の完成だ。 | ||
作業時間はおおよそ3~4時間で、チェーンソーやノコギリの使い方や梯子に登る身軽さ、番線の締め方など、里山に暮らす人たちの手際の見事さにあっという間に時間が経ってしまう。 完成した櫓は中崎公民館前の田んぼに鎮座していて、年末年始にそれを眺めるのがちょっとしたお気に入りだ。 |
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1月8日、午後4時。 | ||
中崎公民館の前に、櫓を作ったおじちゃんたちはもちろん、おばあちゃんや集落に住む子ども連れ、それに帰省してきている子ども連れなど、総勢70名ほどが集まった。 正月のお飾りを持ってきた人は櫓の元にそれを置き、子どもたちには自治会からお菓子が配られ、そこかしこでそれぞれに立ち話をしている。 そうして、いよいよ櫓に火が着けられる。 |
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乾燥した竹の葉と松葉、油分の多い竹とで、櫓はあっという間に大きな炎の塊となった。 | ||
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ばんばんと谷間に竹のはぜる音が響き渡るのをみんな眺める。子どもたちは大きな櫓が燃えていることに興味津々らしく、大人たちに見守れられながら、出来るだけ近くに寄ったり数人でかたまったりしながら田んぼのなかをうろうろしていた。 ある程度すると櫓が崩れ、そうすると櫓を作ったおじちゃんたちは火の番人となる。それぞれに長い竹を持ち、燃えやすいように炎の中の竹を動かす。 |
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火が落ち着いてくると、今度はその熾(おき)火でそれぞれが持ち寄った芋や餅を焼く。ひとしきり餅を食べ日が暮れ始めると、子ども連れから一人また一人と人が減っていく。 | ||
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とっぷりと日が暮れる頃になると、櫓を作ったおじちゃんたちばかりが残る。そうして火を囲み2~3人ずつで話をしている。彼らがしている話題の大半は小塩をよりよくするためにはどうしたら良いかということだ。 静かで大きな火に照らされたおじちゃんたちのシルエットがあまりにも格好良かった。 |
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私は来年の鬼火焚きを、今から楽しみにしている。 | ||
【鬼火焚き】 九州各地にある1月7日前後に行われる火祭り。竹などを組んで松葉などで覆って櫓や小屋を作り、正月飾りや札などを燃やす。 |
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執筆/撮影 片中ゆう子(テヒマニ編集室) ウェブメディア「耳納山麓の人と暮らし」準備中 note:https://note.com/hotorinikki instagram:tehimanihensyushitu(テヒマニ編集室) |
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